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東京地方裁判所 平成7年(行ウ)307号 判決 1996年12月20日

原告

杉南クリニックこと元智得知雄

右訴訟代理人弁護士

秋山昭八

吉成直人

被告

東京都公安委員会

右代表者委員長

河野義克

右訴訟代理人弁護士

山下卯吉

武藤正敏

福田恆二

新井弘治

右指定代理人

長谷川道雄

外三名

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告の請求

被告が訴外株式会社スモーク・ストーンに対して平成七年六月二〇日付けでした「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」三条による同法二条一項七号のぱちんこ屋営業の許可及び同年一〇月二〇日付けでした同法九条による構造設備変更承認を取り消す。

二  被告の答弁

主文第一項と同旨

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、被告が訴外株式会社スモーク・ストーン(以下「訴外会社」という。)に対して平成七年六月二〇日付けでした遊技場営業許可(以下「本件営業許可」という。)及び同年一〇月二〇日付けでした構造設備の変更承認(以下「本件変更承認」という。)について、右各処分に係る遊技場店舗から二〇メートル以内に診療所を開設した原告が、その取消しを求めるものである。

争点は、右各処分の取消しを求める原告適格の有無、具体的には、本件営業許可において、右診療所の開設を所定の場所的要件として考慮すべきであったか、本件変更承認においても右場所的要件の具備が求められているかにある。

二  事実関係等(2ないし5は、証拠及び弁論の全趣旨によって認定した事実であり、認定に供した証拠は括弧内に掲記した。)

1  法令の定め

(一) 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「法」という。)三条一項は、風俗営業を行おうとする者に、風俗営業の種別に応じて、営業所ごとに都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の許可を受けるよう義務づけ、法四条二項二号は、風俗営業の営業所が良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める規準に従い都道府県の条例で定める地域(以下「制限地域」という。)内にあることを風俗営業の許可をしてはならない事由とし、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令(昭和五九年政令第三一九号、以下「施行令」という。)六条は、制限地域を指定する対象地域として、住居集合地域以外の地域のうち、「学校その他の施設で特にその周辺における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県の条例で定めるものの周辺地域」を挙げ(一号ロ)、この制限地域の指定を行う場合には、当該施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲おおむね一〇〇メートルの区域を限度とすること(二号)、制限地域の指定は、風俗営業の種類、営業の態様その他の事情に応じて、良好な風俗環境を保全するために必要最小限のものであること(三号)としている。

また、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例(昭和五九年東京都条例第一二八号、以下「施行条例」という。)一条四号、三条一項二号は、制限地域として、住居集合地域のほか、学校、図書館、児童福祉施設、病院、診療所(医療法一条の二第二項(平成四年法律第八九号による改正後の医療法一条の五第三項)に規定するもので、患者の収容施設を有するものに限る。)(以上の施設を、以下「保護対象施設」と総称する。)の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)周囲一〇〇メートル以内の地域を規定し、そのただし書において、近隣商業地域及び商業地域のうち規則で定める地域に該当する部分を除いている。そして、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例の施行に関する規則(昭和六〇年東京都公安委員会規則第一号、以下「条例施行規則」という。)二条一項二号は、商業地域については、保護対象施設のうち大学、病院及び診療所の敷地からの距離が二〇メートル以上の区域を制限地域から除外している。

(二) 法は、営業所の増築、改築その他の行為による営業所の構造又は設備の変更をしようとする風俗営業者に対して、国家公安委員会規則で定めるところにより、あらかじめ公安委員会の承認を受けることを義務づけ(九条一項)、営業所の構造及び設備が国家公安委員会規則で定める技術上の基準(四条二項一号)及び営業許可に付せられた条件(三条二項)に適合していると認めるときは、公安委員会は右承認をしなければならないものと規定している(九条二項)。

2  本件営業許可について

訴外会社は、平成七年五月二九日、被告に対して、法二条一項七号に規定するぱちんこ屋として、営業所の名称を「パーラー ジョイ」、営業所の所在地を東京都杉並区方南二丁目二一番一号方南町鈴力ビル一階、営業所の床面積を266.029平方メートル、客室の床面積を51.546平方メートル、遊技設備を回胴式遊技機三〇台とする営業許可を申請し(乙二号証)、被告は、同年六月二〇日、「遊技機は一人一台としハンドルの操作は必ず手を持って行い、器具、器物等を使用して遊技をさせないこと」との条件を付して、本件営業許可をした(甲一号証の二)。

なお、本件営業許可に係る店舗(以下「本件店舗」という。)では、同年七月一〇日に営業が開始した(乙六号証)。

3  本件診療所の開設等の経過

訴外斎藤實(以下「斎藤」という。)は、平成七年六月二六日、原告を連帯保証人として、訴外田中永雄(以下「田中」という。)から東京都杉並区方南二丁目五二四番地所在の家屋番号五二四番二、木骨防火造瓦葺平家建の建物(住居表示は同区方南二丁目二一番一〇号)を診療所として使用する目的で賃借した。なお、登記簿及び賃貸借契約に表示された目的建物は平家建一棟の一階53.42平方メートルという挟小な建物であるが(甲四号証の二、三)、右建物の写真として提出されたもの(甲一〇号証の一、二)は、二階建建物であり、診療所の改装図面(同号証の二)によれば、一階に受付、待合室、診察室、レントゲン室、二階に二人用病室及び一人用病室各一室を備えたものとなっている。また、貸主である田中は、本件建物につき、平成七年六月六日売買予約を原因として同月二九日に所有権移転仮登記を経由しているが、平成七年七月一一日当時において未だその本登記を経ていない(甲四号証の二)。

医師である訴外今西嘉男(以下「今西」という。)は、同年七月二七日、同人を開設者とする右建物における診療所の開設届をしたが、その後開設者が原告に変更された。原告は、同年八月三日、右建物を収容定員三名の収容施設を有する診療所として使用すべく、東京都杉並区南保健所長に対して医療法二七条による診療所使用許可申請をし、同月一四日、同所長は、右診療所の使用許可をした(この診療所を、以下「本件診療所」という。)。

なお、本件診療所を開設するための建物改装工事については、建物賃貸借契約前の平成七年五月末ころに工事契約が締結されたことが窺えるが、現実の工事は同年七月に入ってから実施され、同月二五日に終了したことが窺える(甲二一、二二号証)。

4  本件店舗と本件診療所との位置関係等

本件診療所と本件店舗との位置関係は、別紙一記載のとおりであり、本件診療所の敷地から本件店舗までの距離は二〇メートル未満である(甲一五号証の一、二)。

本件店舗の所在地は、商業地域に属し、丸の内線方南町駅前の方南町通りに面した商店街にあり(乙七号証)、本件診療所の裏側に面し、本件店舗に隣接する土地では、既に訴外人がパチンコ店の営業を行っている(甲一〇号証の二)。

5  本件変更承認について

訴外会社は、本件店舗の構造及び設備につき、平成七年九月六日、被告に対して、法九条一項の規定に基づき、別紙二記載の内容の変更承認を申請した(乙三号証)。この変更は、従前の営業所(一階部分)の大半を客室とし、地下一階部分に景品交換所及び便所を設置すると共に営業設備を増設し、既存の遊技設備に変えてぱちんこ遊技機一八八台を設置するために既存の機械島を作り直そうとするものである。

被告は、同年一〇月二〇日、法九条二項に基づき、右申請につき、本件変更承認をした(乙三、四号証)。

三  争点に関する当事者の主張

1  被告

(一) 保護対象施設の開設者は、右施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)を起点とした制限地域内における風俗営業の許可に対して、その取消しを求める訴えの原告適格を有するが、制限地域内の保護対象施設の存否の判断は、右許可の時を標準としてされるべきであり、また、保護対象施設の用に供するものと決定した土地とは、当該保護対象施設の設置について権限のある機関が正式にその用に供する旨を決定した土地をいい、公的手続等から保護対象施設の用に供することが客観的に明白になっていることを要するものであるところ、本件診療所について収容施設の使用許可申請が行われたのは平成七年八月三日、その許可がされたのは同月一四日であり、いずれも本件営業許可のされた同年六月二〇日の後であったから、本件営業許可の時点において、本件店舗ほ制限地域内にはなかった。

したがって、原告は本件営業許可の取消しを求める訴えの原告適格を有しない。

(二) 原告は、平成七年七月一三日に訴外会社が営業していたと主張しているから、この時には本件営業許可の存在を知ったことになるし、遅くとも同月二六日までには、本件営業許可の存在を知ったところ、本件訴えは同年一二月一日に提起されているから、本件訴えは出訴期間を徒過した不適法な訴えである。

(三) 既に許可を受けた風俗営業の営業所について構造又は設備の変更の承認をする場合の審査要件は、承認申請に係る営業所の構造又は設備に関する技術上の基準への適合性及び公安委員会が付した条件への適合性であって、法四条二項二号に規定する地域に関する場所的な欠格事由の存否は含まれず、適法な営業許可の後に近隣地域に保護対象施設が開設され、変更承認時には、風俗営業の営業所との距離が制限地域として定める距離になったとしても、法は、当該施設を既存の右風俗営業の営業所との関係での保護対象施設としていないのであるから、原告は本件変更承認の取消しを求める原告適格を欠くものというべきである。

2  原告

(一) 風俗営業の許可制度は、善良の風俗と清祥な風俗環境を保持することを目的として、風俗営業の自由を制約するものであり、さらに、病院等の保護対象施設については、その施設での円滑な業務の遂行を保護するためにその敷地から一定の距離の区域内の地域を風俗営業の制限地域としたものであり、これは特定の保護対象施設につき、善良で静穏な環境の中で円滑に業務を運営するという個別的利益が法的に保護されているものであるから、保護対象施設の設置者は制限地域内に風俗営業が許可された場合には、右許可の取消しを求める原告適格を有する。

そして、この趣旨は、営業許可の時点で保護対象施設が現実に開設・運営されていることを要するものではなく、近々開設される状態にあれば、保護対象施設が存在するものと解すべく、また、診療所の設置が近隣住民に公示され、工事が着手され、保健所等にもその旨の連絡がされ、近々開設許可がされることが明確になっている場合には、保護対象施設の敷地に決定した土地と解すべきである。

(二) 原告は、平成七年六月五日から本件診療所の建築工事に着手し、同年七月上旬に竣工したが、この間、現場に「杉南クリニック開設準備室近日開院」との掲示をし、本件営業許可以前に近隣に診療所開設の予告をし、被告に対しても営業許可をしないよう再三通知をしていた。

したがって、本件営業許可当時、訴外会社及び被告は、本件診療所が建設されることを予知し、近々本件店舗が法の場所的欠格事由を有するに至ることを予知していたものであり、他面、原告は本件店舗における風俗営業により生ずる支障を認識した上で本件診療所を開設したのではないのである。

したがって、訴外会社の営業を保護する必要はないばかりか、本件営業許可は法を潜脱する目的をもって実体のない営業に対してされたものであって、違法である。

(三) 原告は、弁護士会照会の回答により、平成七年七月二六日に本件営業許可の存在を知ったが、原告が本件店舗における営業により法律上の保護が侵害されたことを知ったのは、同年一一月七日であるから、本件営業許可の取消しを求める訴えについて出訴期間の徒過はない。

(四) 営業許可に係る営業の内容と変更承認に係るそれとで近隣環境に与える影響が異なることとなる以上、変更承認においても、その時点における場所的欠格事由の有無を審査すべきものであり、本件変更承認は、三〇台のスロットマシーンから一八八台のぱちんこ機械に増設するために地階増設を含む著しい営業店の構造又は設備の変更を内容とするものであって、その実質は、法三条による新規営業と異ならないのであって、本件診療所及びその周辺住民に与える支障の度合は本件営業許可における内容とは比較にならない程重大である。

しかも、訴外会社は、工事差止めの仮処分決定に背馳して、工事を進め、被告もこの事情を認識しながら本件変更承認をしたものであって、その違法性は極めて高い。

第三  当裁判所の判断

一  法は、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持するため風俗営業について営業区域等を制限することとし(一条)、風俗営業の営業所に係る許可について既に摘示したとおりの制限地域を設けているものであり、制限地域の指定の内容に照らせば、前記法令は、保護対象施設について、法がその環境利益を保護している範囲で、善良で静穏な環境の下で円滑に業務を運営するという利益をも個別的にも保護しているものと解することができる。

もっとも、許可に当たっては、その時点において、その要件を審査すべきものであって、保護対象施設の存否、制限地域の範囲もこれと異なるものではないから、前記各規定からすれば、被告が風俗営業の許可をする時点において、保護対象施設又はその用に供するものと決定した土地が未だ存在していないときは、そうした保護対象施設の存在による制限地域も存在しないことになり、風俗営業の許可がされた後に、保護対象施設が設置され、又はその用に供する土地が決定されたとしても、右施設について善良で静穏な環境の下で円滑に業務を運営するという利益は、前記法令によって個別的に保護された利益には当たらないことになる。

すなわち、法及び前記各関連法令は、制限地域内における風俗営業の自由と保護対象施設の円滑な運営との調整として、風俗営業の営業許可時に、既に存在し、又はその用に供するための土地が決定された保護対象施設については、その円滑な運営をその個別的利益として保護するために、制限地域内に風俗営業の営業所そのものの設置を認めないこととし、他方、既に営業許可がされた営業所については、その後に近隣地域に保護対象施設の用に供される土地が決定され、又は、当該施設が開設され、その敷地等を起点とすれば、営業所が制限地域の範囲に入るとしても、当該施設の環境利益の故に既にされた風俗営業の営業の許可の効力に消長を生ぜしめないものとしているということができる。

そうすると、営業許可の後に制限地域となるべき範囲の土地に保護対象施設が設置されたとしても、営業許可の時点においては、当該保護対象施設の設置者との関係で制限地域は存在せず、また、この時点で、当該保護対象施設における環境利益は存在しないことになるから、当該保護対象施設の設置者は右営業許可の取消しを求める訴えを提起するにつき原告適格を有しないものというべきである。

そして、風俗営業の営業所に係る右場所的規制は営業の自由を制限する根拠となるものであるから、その要件となる保護対象施設は営業許可の時点において適法に存在しているものであることを要し、保護対象施設の用に供するものと決定した土地ということができるためには、保護対象施設の用に供することが予定されているだけでは足りず、営業許可の時点において審査対象として考慮すべきものとして、保護対象施設の用に供することが公的手続等からも客観的外形的に明白になっていることを要すると解すべきである。また、右要件は客観的外形的に判断されるべきものであるから、風俗営業の営業所設置者又は保護対象施設の開設者の予想又は期待といった個別的事情によって左右されるべきものではないというべきである。

二1  前記認定事実によれば、本件店舗は商業地域に存在し、本件診療所の敷地から二〇メートルの範囲内に所在するから、本件営業許可当時、保護対象施設として、すなわち患者の収容施設を有する診療所として、本件診療所が適法に存在し、又はその敷地が患者の収容施設を有する診療所の用に供することが決定していたときは、原告は、右営業許可の取消しを求めるにつき原告適格を有することになる。

しかしながら、本件診療所について患者の収容施設を有する診療所の使用許可がされたのは平成七年八月一四日であり、医療法二七条によれば、収容施設を有する診療所については、その構造設備について検査を受け、許可証の交付を受けた後でなければ使用できないこととされているのであるから、本件診療所が保護対象施設として適法に存在することとなったのは、本件営業許可の後の平成七年八月一四日というべきである。また、本件診療所は既存の建物を改造したものであるが、改装内容において三床の患者収容施設を予定し、その予定が外部に表示され、その改造がされたとしても、本件営業許可の時点において、患者の収容施設を有する診療所であることが公的手続等からも客観的外形的に明白になっていたといえないことは、既に摘示した事実関係から明らかである。

したがって、原告は本件営業許可の取消しを求める訴えの原告適格を欠くものというべきである。

2  この点につき、原告は、営業許可の時点で保護対象施設が現実に開設・運営されていることを要するものではなく、近々開設される状態にあれば、保護対象施設が存在するものと解すべく、また、診療所の設置が近隣住民に公示され、工事が着手され、保健所等にもその旨の連絡がされ、近々開設許可がされることが明確になっている場合には、保護対象施設の敷地というべきであるとして、本件診療所の開設が遅滞したことの理由若しくは工事状況又は原告及び訴外会社の認識内容等に言及する。

しかし、法及び前記関連法令は、風俗営業の自由と保護対象施設の環境利益との調整として、制限地域を定めているのであって、制限地域指定を必要最小限とすべき旨の施行令の謙抑的態度に照らしても、原告が主張するようなあいまいな時点を基準とし、あるいは、関係当事者の主観的事情によって保護対象施設の存否を判断すべきものではないのである。

3  本件営業許可の取消しを求める請求が不適法であることは既に説示したとおりであるが、原告が、平成七年七月二六日までに、本件営業許可の存在を知ったことは原告も自認するところであり、原告が本件営業許可の取消しを求める本件訴えを提起したのは同年一二月一日であるから、本件訴えが行政事件訴訟法一四条一項所定の出訴期間を徒過して提起されたものであることは明らかである(甲二号証の一)。

原告は、本件店舗で一八八台のパチンコ台を設置して営業が開始されたことにより、本件診療所の営業に著しい支障を生ずることを察知し得たのは同年一一月七日であるから、出訴期間を徒過していない旨の主張をする。しかし、処分の取消訴訟の出訴期間は、処分があったことを知った日から計算されるものであり、原告の主張する事情があるとしても、これをもって当事者の責に帰することができない事由によって、出訴期間を遵守できなかったものとはいえないから(行政事件訴訟法七条、一四条二項、民事訴訟法一五九条)、原告の主張は失当である。

三 既に摘示したとおり、法九条は、構造又は設備の変更の承認については、技術上の基準及び営業許可に当たって被告が付した条件に適合しているときは、右承認をしなければならない旨を規定しているのであって、変更承認においては、風俗営業の許可の要件である技術上の基準の適合性(法四条二項一号)等については再度審査されることとされているものの、同項二号の地域的制限については何らその処分要件とされていないところである。すなわち、法は、風俗営業の許可に当たっては、そうした地域的制限がないことを許可要件としているものの、いったん右要件に適合するものとして風俗営業の許可がされたときは、その後に、近隣に診療所等の施設が設置されるなどしても、既に風俗営業の許可を受けた営業所の構造又は設備の変更に当たっては、技術上の基準等を考慮すれば足り、そうした施設の存在自体はこれを特段考慮する必要がないものとしているのであるから、風俗営業の許可後に設置された施設での善良で静穏な環境の下で円滑に業務を運営するという利益は、法九条の構造又は設備の変更承認に際しては、一般的な公益の保護に吸収解消し得ない個別的な利益として法が保護する利益には当たらないものと解すべきである。

したがって、法九条の変更承認が風俗営業の許可を含んでいると解すべき特別の事情がある場合(例えば、風俗営業の許可においては、当該営業所が診療所等の施設による制限地域の外にあったが、構造設備の変更によって制限地域の内に当該営業所が所在する結果となるような場合等)は格別、原則として、当該営業所の近隣に施行条例三条一項二号所定の診療所等の一定の施設を設置している者であることをもって、法九条の変更承認の取消しを求める訴えの原告適格を有するということはできない。

この点につき、原告は変更承認においても、その時点における場所的欠格事由の有無を審査すべきものであるとするが、法及び関連法令に照らして、かかる見解を採用することはできない。

また、原告は、本件変更承認は、回胴式遊技機三〇台をぱちんこ遊技機一八八台への変更するなど大規模な変更であって、その実質は、新規の営業許可と何ら異なるものではない旨を主張する。しかし、法九条は、構造又は設備の軽微な変更について承認を要しない場合があることを規定するものの、規模が大きいことを不許可の事由とすべき旨の定めはなく、また、遊技機の増設変更、増設、交替その他の変更についての承認は法二〇条一〇項によるものであって、本件変更承認は遊技機の増設変更に係るものではなく、本件変更承認が法九条における変更の限度を超えるとか、実質的に新規の営業許可と同様であると認めることはできないから、原告の主張を採用することはできない。

なお、原告は、本件変更承認が原告の申請に係る平成七年八月三〇日付けの工事差止めの仮処分に違反する訴外会社の行為を是認する違法なものである旨の主張をするが、仮処分の主文は、構造設備の変更承認若しくは営業許可あるまで、ぱちんこ店の営業をしたり営業準備のための内装工事をしてはならないというものであって、変更承認処分の申請を禁止するものではない。

四  以上によれば、原告の本件訴えはいずれも不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官富越和厚 裁判官竹野下喜彦 裁判官岡田幸人)

別紙一、二<省略>

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